降り立った山口の宇部空港は閑散としていて、山口名物ののぼりが土産物屋にたなびいていた。わたしは山口市行きのバスに乗り込んで、流れる車窓をぼんやりと見ていた。東日本で育った私の目には、西日本の景色は不思議に感じる。はっきりとは言えないけど、山の形も違うし、木の種類も草の生え方も違うから流れる景色の色が違う。全く景色が違って見える。 バスは山口市に入り、だだっ広い公園の「維新百年記念公園」を過ぎて、さびれた風情の湯田温泉に付いた。YCAMまではすぐそこ。私はバスを降りるとホテルにチェックインした。一泊六千円の、味も素っ気もないビジネスホテルだ。ルームキーは真っ青なアクリルに部屋番号が刻印されていてチェーンで鍵がついているやつで、カードキーに慣れた身にはむしろ新鮮だった。ラウンジの赤いベルベッドのソファの前にあるローテーブルには、鈍器になりそうなクリスタルの灰皿が置いてあった。赤黒い漆の龍の木彫像がテーブルの横で睨みをきかせていた。
小説 クラブハウスの恋人 4
小説 クラブハウスの恋人 4
小説 クラブハウスの恋人 4
降り立った山口の宇部空港は閑散としていて、山口名物ののぼりが土産物屋にたなびいていた。わたしは山口市行きのバスに乗り込んで、流れる車窓をぼんやりと見ていた。東日本で育った私の目には、西日本の景色は不思議に感じる。はっきりとは言えないけど、山の形も違うし、木の種類も草の生え方も違うから流れる景色の色が違う。全く景色が違って見える。 バスは山口市に入り、だだっ広い公園の「維新百年記念公園」を過ぎて、さびれた風情の湯田温泉に付いた。YCAMまではすぐそこ。私はバスを降りるとホテルにチェックインした。一泊六千円の、味も素っ気もないビジネスホテルだ。ルームキーは真っ青なアクリルに部屋番号が刻印されていてチェーンで鍵がついているやつで、カードキーに慣れた身にはむしろ新鮮だった。ラウンジの赤いベルベッドのソファの前にあるローテーブルには、鈍器になりそうなクリスタルの灰皿が置いてあった。赤黒い漆の龍の木彫像がテーブルの横で睨みをきかせていた。