降り立った山口の宇部空港は閑散としていて、山口名物ののぼりが土産物屋にたなびいていた。わたしは山口市行きのバスに乗り込んで、流れる車窓をぼんやりと見ていた。東日本で育った私の目には、西日本の景色は不思議に感じる。はっきりとは言えないけど、山の形も違うし、木の種類も草の生え方も違うから流れる景色の色が違う。全く景色が違って見える。 バスは山口市に入り、だだっ広い公園の「維新百年記念公園」を過ぎて、さびれた風情の湯田温泉に付いた。YCAMまではすぐそこ。私はバスを降りるとホテルにチェックインした。一泊六千円の、味も素っ気もないビジネスホテルだ。ルームキーは…
「私、金曜に山口に行くから」 そう言うと、部屋にいるみんなが、一瞬ポカンとした後に爆笑した。私がガシャポンさんに会いに行くという意味が全くわかっていないからだ。私がガシャポンさんに思いを抱いているということは誰にも言っていなかった。いつもみんなが集まる部屋でしかガシャポンさんと話していなかったから。 …
東京には何でもあるけど何にもない。それを教えてくれたのがコロナだった。平日は朝9時になったら仕事のためにパソコンを開いて、18時になったら閉じて仕事はおしまい。そしてやってくるのは長過ぎる夜。 東京に今まであったもの。それは、好きなミュージシャンが演奏するライブハウス、仲間と着飾って週末に行くクラブ、…
わたしの名前はカクダエミコ。宮城から東京に出てきて10年以上経つ。東京に来たのは雑誌の編集者になりたかったから。そう言うとみんな笑った。「絶対なれるわけない」とみんなが言った。 でもその10年後、私はライター、編集者として働いていた。日本中・世界中を駆け回って、みんなが憧れるファッション雑誌で名前を冠…
たくさんの人の胸を焦がす「新宿三井ビル会社対抗のど自慢大会」。このイベントはビルができた40年前から、毎年夏になると入居するビルのテナントの会社対抗で趣向を凝らしたのど自慢大会が行なわれるわけである。 大会は、2日に渡る予選とその結果選ばれた20組が出場する最終日の決勝戦の合計3日間にわたって行なわれ…
世界に対して「祝福してくれ」と言いたくなったら、サリンジャー の「フラニーとゾーイー」の一文を思い出す。自分が考える正義にまったく即しないこの世界というものに対して、妹のフラニーはひたすら苛つきをあらわにして呪いの言葉をつぶやく。そんなフラニーに言うのがタイトルの言葉だ。 ゾーイー「しかし、ぼくの気に…
あまりにも平坦な毎日が続くので自分が葦になったような気がしている。光合成をして栄養を得て風にそよぎ寿命が尽きて死ぬ。自分も18時に終業してパソコンを閉じたら冷蔵庫のハイボールを取り出し飲んで意識をなくしまた朝になって始業する。終業しても映像も見ないし音楽も聞かないし文章も読まない。葦は寿命が尽きたら死…
スパイク・ジョーンズ監督の映画「her」。大変な傑作だと思ったが、女性にあまり人気がない印象を受ける。女性が「アナと雪の女王」が大好きならば、「her」はどちらかといえば男性受けが良い映画のようだ。その理由は何だろう?「her」を見た女性が「この映画で唯一共感できたのはセオドアの元奥さんだけ」と意見し…
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